週末の木曽川河川敷で賑わっているのが、自慢の機体を操縦して楽しんでいるラジコン飛行機の愛好者たちです。現職パイロットなどのモデラーが集うなか、完全オリジナルで機体を制作する後藤鐘一さんに密着しました。
そもそも「ラジコン飛行機」とは?
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人の手を介すことによって離陸するグライダー
ラジコン飛行機といっても遊び方によって種類が異なり、もっとも手軽に楽しめるのが動力を用いない「グライダー」です。グライダーは機体がシンプルなため安価で購入でき、修理がしやすいといったメリットもあります。
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いかにも速そうなジェット戦闘機の「F103」
ほかには、長時間飛行に適したモーター駆動のものやエンジンを搭載した本格的なモデルもあります。タイプは「トロージャン」から「戦闘機」「水陸両用機」など、さまざまなモデルから選択可能です。
最近では、簡単な組み立てで飛ばせる半完成品も登場しており、ラジコン飛行機の敷居も低くなってきました。
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水陸両用機だけでも数多くのモデルが存在
マニアに人気のバルサキット
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つくる楽しみと飛ばす楽しみが両立したバルサキット
一方で昔から販売されているのが、軽量かつ剛性に優れたバルサ材を使用した「バルサ組み立てキット」です。
バルサ組み立てキットは、設計図を基にバルサ材をカットして加工や組み立てをして、仕上げの塗装を行うことでより高度な機体を製作できます。部品点数の多さで難易度が大きく変わり、個体によっては完成までに半年以上かかるものまであるようです。
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近年では組み立てが簡単な半完成品も登場
ただし、半完成品と比較してモデルの選択肢が多いだけでなく、オリジナルの演出に長けていることもあって、多くのモデラーに支持されています。
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工作技術の高さを評価されている後藤鐘一さん
今回密着した後藤鐘一さんは、ラジコン飛行機歴44年を超える仲間内でも一目置かれる存在。後藤さんは一から飛行機を設計して、完全オリジナルのラジコンを設計するほどの腕前です。
世界に1つだけのラジコン飛行機は、製作段階はもちろんのこと、組み立て後も繰り返しテスト飛行を繰り行うことで完成させていきます。
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力作「T28 トロージャン」翼のリベットまで忠実に再現
外観の完成度も非常に高く、アメリカの練習用航空機「T28 トロージャン」では、リアルさを追求しパネルのつなぎ目のリベットを1つひとつ手描きするほどです。
バルサ材をもとに機体をつくる
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後藤さんの工房。所狭しと多数の作品が保管されている
後藤さんが手がけるラジコン飛行機は、自宅の庭の手作り工房で生まれ、工房内は手作りの飛行機で埋め尽くされています。
飛行機の製作の要となる設計図がない機体はプラモデルから採寸を行い、手書きで図面を起こすほどのこだわりぶりです。
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後藤さん思い出の一機。製作期間は約1年、図面だけでも3カ月かかったのだとか
バルサ材は柔らかい木材でカッターで簡単に裁断できるだけでなく、水分を含みやすい性質のため曲げ加工がしやすい特徴があります。
後藤さんが建設業をしていた時に経験した、柱のへこみを直すのに水蒸気によって膨らむ木材の特性を模型作りでも活かしています。
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とくに難しい曲面加工は水分を含ませたウエスでバルサ材を柔らかくしてからアイロンで加工
オリジナルの機体を製作するなかで一番難しいのが、流線型の胴体部分。複数枚のバルサ材を接着剤で貼り合わせることで、微妙な曲線を再現しています。
バルサ材を貼り合わせるときにも、後藤さんならではのこだわりが。接着剤が乾くまで固定するマチ針は、日本では販売していない海外仕様を利用しています。
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パーツを組み合わせる時に必須のマチ針は海外で入手可能な模型用を利用
アイロンを使って少しずつ曲面を作成しながら、丁寧に組み上げていきます。組み上がった機体はヤスリで徹底的に磨きをかけて、滑らかな局面に仕上げていきます。
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ヤスリ掛けをすることで、複数枚のバルサ材を貼り付けた機体とは思えないほどの美しさ
エンジン部分にオリジナルのふたを製作
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現場でのメンテナンス重視のため、あえて機首部分も自作するこだわりぶり
後藤さんのラジコン飛行機は、バルサ材のキットをベースに製作することもありますが、そのまま組み立てたりはしません。
エンジンが搭載されている機首部分には、ABS樹脂で製作されたカウリングを装着するのが普通ですが、後藤さんはエンジンの部分にオリジナルのふたを製作して対応しています。オリジナルのふたを製作することで、現場でトラブルがあったときにメンテナンスをしやすくするためです。
パイロットをつくって完成
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ほとんど目に触れない場所でもこだわりぬくのが後藤流
後藤さんの飛行機に対するこだわりは、コックピットにまで表れています。コックピット内のパイロットは紙粘土で製作し、操縦桿とスロットルを握った世界に1つだけしかない造形です。
現在制作しているのが「ULTIMATE 10-300」という、アクロバット用の複葉機ということもあってパイロットとの手にはアクロバット飛行のマニュアルも握られています。
さらに計器類も付属のデカールで対応するのではなく、立体造形にガラスを貼り合わせたこだわりぶりです。
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細部までこだわりをもってつくられたお手製パイロット
日夜、ラジコン飛行機の制作に没頭する後藤さんが一番緊張するのが初フライトで、着陸のときにいかにキレイに滑空できるかが、いまでも緊張するようです。失敗して機体が壊れると涙が出るほどの思いですが、成功した時の達成感がラジコン飛行機の一番の面白味だと後藤さんは語ります。
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