三重県最大級の熱量を誇る模型イベント「MIEMO」。会場には、全国から集まった凄腕モデラーたちの力作がずらりと並んでいました。
その中でも、ひときわ異彩を放つ超巨大な作品を発見。なんと制作期間に7年、材料費には120万円以上を費やしたという規格外の作品です。制作したのは、神奈川県からやってきたみずき匠さん。
「これ、本当に個人が部屋で作ったの……!?」と誰もが耳を疑う、圧倒的な情熱と狂気(褒め言葉)に満ちた制作秘話を伺いました。
神奈川から三重へ車移動!大人の大移動はなんと深夜2時からスタートしていた
――はるばる神奈川県から来られたそうですね。運搬も大変だったのではないでしょうか?
「2時に神奈川を出てきました(笑)大荷物で。結構遠かったですね」
三重県中部に位置する会場まで、深夜2時に車を走らせてやってきたというみずきさん。大きな模型を傷つけずに運ぶだけでも一苦労ですが、実は超行動派な素顔をお持ちです。
「実は、先々週もこっち来ているんですよ。鈴鹿8耐(鈴鹿8時間耐久ロードレース)で。もうバイクが大好きで、自分でもバイクレースに参戦しているんです」
乗り物全般が大好きで、自らレースに参戦するほどの情熱家。そんな乗り物好きが高じた結果生まれたのが、目の前に鎮座する巨大な船の模型でした。
「これなら部屋で作れると思ったのに……」1メートルの勘違いから始まった沼
――この迫力ある模型、アニメ『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』に登場する巨大宇宙船ガランシェールですね。一体なぜこれを自分で作ろうと思ったのですか?
「最初、このクシャトリヤっていう船に乗せるロボットの市販キットを買って仮組みした時に、『これくらいの大きさだったら、ガランシェールくらい部屋で作れそうだな』と思って始めたんです」
市販のプラモデルを手にした瞬間、「この船も自分で作れるのでは?」とひらめいてしまったみずきさん。アニメの公式設定を調べると、ガランシェールの全長は約140メートル。ガンプラで一般的な1/144スケールに換算すると、模型のサイズは約1メートルになります。
「1メートルくらいだったら、自分の部屋でも作れるなと思って図面を引いてみたら……、クシャトリヤが中に入らないんですよ(笑)」
なんと、スケール通りに作ると中に格納するはずのロボットが入らないという衝撃の事実が発覚!ここから、物語は予期せぬ方向へと動き出します。
アニメの公式デザイナーからXに届いたナイショの裏技で俄然やる気になった
「『入らない!』ってTwitter(現X)で呟いたら、アニメの映像の方のメカデザイナーの人からDMが来て。『設定全長を140%の大きさにしないと入りません。ナイショですよ』って送ってくれて(笑)」
まさかの公式デザイナー本人からアニメの嘘(作画上の演出)を暴露される神展開が発生!プロからのまさかのアドバイスに、みずきさんの職人魂へ一気に火がつきました。
「中の人がそうやって教えてくれたら、なんか作らないと、作り切らないと……ってなっちゃって」
公式からのアドバイスという最高の義務感を背負ったみずきさん。ここから、壮絶な制作の日々が幕を開けたのです。
材料費120万円&制作7年!狂気すら感じる試行錯誤にプロからアドバイスも
――完成までにどれくらいの期間がかかったのでしょうか?
「結局、完成まで7年かかりました。もう最後は意地でしたね。材料費だけで120万円くらいかかっているんですよ」
7年という歳月と、軽自動車が買えてしまうほどの120万円という制作費。プラモデルの枠を完全に超えています。
巨大な作品の強度を保つため、主材料には車のパーツなどに使われる「FRP(繊維強化プラスチック)」を選択。しかし、みずきさんにとってFRPは扱ったことのない未知の素材でした。
「FRPも初体験で。素材をどうやって作ったらいいか試行錯誤しているのをTwitterにあげると、そっち方面のプロの人から『車のフェンダー作っています』『バイクのカウル作っています』って教えてくれたりして。電飾のプロの人もプログラミングを教えてくれたり、近所の電気屋さんに『アースって何だ?』って教えてもらったり(笑)みんなの知恵を借りて作りました」
さらに驚くべきは、船体表面に彫られたリアルな溝(スジ彫り)の作業です。固いFRP素材に対して、専用の刃物(タガネ)を使って手作業で彫り進めた距離は、なんと総延長15メートル!
「設定画にはこんな細かいディテール(細部)はないんです。アニメの映像を一時停止して、写真撮って、一時停止して写真撮って……」
アニメの画面をコマ送りにして静止画を撮影し、劇中の一瞬しか映らない細かいパーツまで全て再現。途方もない作業の繰り返しによって、この説得力が生み出されたのです。
部屋から船体が出せない!?最初は気付かなかったミスに神対応で乗り切る
――これだけ巨大だと、お部屋から外に運び出すのも一苦労だったのでは?
「これ、部屋のドアを通らなくて(笑)最初作った時は通らなくて、翼の端が壁に引っかかるんですよ」
なんと、部屋の中で組み立てていたため、完成直前に部屋のドアを通過できないというギャグのような悲劇が発覚!
「うちの部屋、直角に出なくちゃいけないので当たるんです。だから途中で分割できるように作り直しました」
内部に頑丈な木のフレームを組み込み、翼やパーツを分解して持ち出せる仕組みへと構造変更。失敗すらも技術力でねじ伏せてしまうのが、みずきさんの凄さです。
さらに、船体に並ぶボルト穴やネジ頭が見えるとおもちゃ感が出てしまい世界観が損なわれるため、すべてのネジの上にカバーを被せて完全に隠すという徹頭徹尾のこだわりよう。カバーを外せば、今でもメンテナンスのために分解できるようになっています。
仕掛け満載!にもかかわらずプロモデラ―の前で起こったうっかり悲劇の瞬間
船体のハッチが開閉したり、内部のコックピットが再現されていたりと、仕掛けも満載。劇中で主人公たちが繰り広げた名シーンが、そのまま手のひらサイズ(と言っても巨大ですが)で蘇ります。
「上のグラップルアーム(アームパーツ)も上がって相手を掴める仕様なんですけど……、中でワイヤーが切れちゃったんですよね(笑)。最後に動いたのを見たのは、プロモデラーのマックス渡辺さんです。東京の展示会で『見て見て!』って動かしたら、ウイーン……、プチッて切れたんです(笑)」
業界の超有名人の前でギミックが動かなくなるというオチまでつく始末。直すには表面を全面的に剥がさなければならず、大手術になるため現在は展示会オフシーズンの修理を待っている状態なのだとか。
公式にTwitterを見られていて「自分が作ると公式からキットが出ちゃう」伝説
――ここまで情熱を傾けてゼロから模型を作り上げる(フルスクラッチする)一番の魅力は何ですか?
「脇役が好きなんですよね。『どうせ公式からプラモデルとして出ないだろう』ってやつをイチ早く自分が作って、ちょっと騒がしたろか、みたいな(笑)。大体、私がフルスクラッチで作ると、そのあと公式からキット化されて商品が出るっていうジンクスがあるんです。絶対Twitter見られていると思います(笑)」
「メーカーに出ないなら自分が作る!」という反骨精神と愛が、模型界の伝説的なジンクスを生み出していました。
「みんなに『次は何作るの?』って聞かれるんですけど、映画『閃光のハサウェイ』に出てきたやつを作ろうと思っています。ハサウェイもまだ続編がありますからね」
7年の歳月をかけて1つの伝説を創り上げたみずきさんですが、その情熱の炎は留まることを知りません。
専門知識がなくても、一目見ればその異常なまでの情熱と圧倒的な完成度に誰もが言葉を失う。大人が本気で趣味に向き合った時に生まれる規格外のパワーと遊び心に、胸が熱くなる取材となりました。
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