「光洋陶器」(岐阜・土岐市)は、ホテル・レストラン用の業務用食器を年間200万個以上も製造する陶磁器メーカー。そんな「光洋陶器」が開発したのが、世界中の一流バリスタが絶賛する「ORIGAMI Dripper(以下、オリガミドリッパー)」(※12色展開)だ。
今回はその製造工程に密着、特徴的なギザギザはどのようにして生まれたのか…開発秘話に迫る。
バリスタのチャンピオンが絶賛するドリッパー
2019年に開催されたバリスタの世界大会で、チャンピオンが使用した「オリガミドリッパー」。その後は一気に知れ渡り、トップバリスタがこぞって使うように。コーヒー業界に新たな風を吹き込んだ。
日本チャンピオンの小野光さんも愛用者の一人で、「円すい型のドリッパーよりもお湯の落ちるスピードが速い。他のドリッパーにはない強み」と話す。
ポイントは、お湯が流れるスピードだ。普通の円すい型のドリッパーはフィルター全体が密着するが、「オリガミドリッパー」はフィルターの間に隙間が生まれる。この隙間があることでお湯の流れがスムーズになり、余分な雑味を抽出することなく、おいしいコーヒーに仕上がる。
国内コンテストで優勝経験がある園田道徳さんも、「僕の周りにも愛用者がたくさんいる。おいしいコーヒー作りに役立っている。(オリガミドリッパーがないと)うちの仕事は成り立たない」と絶賛。一般家庭でも広く使われ、2024年は14万個以上を販売した。
画期的ドリッパー 製造工程の秘密
ここからは、ドリッパーの製造工程を見ていこう。まずはこちらの型を6段に積み上げる。
ドリッパーの材料は、泥漿(でいしょう)と呼ばれるさらっとした泥。秘密は「鋳込み成型」という方法にある。
タンクに入った泥漿をパイプを使って、積み上げられた型へと流す。型には大きな穴が開いており、泥漿はそれを通って上へ。さらにそこから小さな穴を通って型の中へと入っていく。型を積み上げることで、1度に6個、成型することができる。
15分後、型を取り外してエアーで浮かせると、ドリッパーの形に。
成型されたドリッパーは最高800℃の熱で素焼きされ、釉薬のプールにドボン! 釉薬は焼くとガラス質に変化するため、器の強度を高める効果がある。
その後は窯に運ばれ、再度じっくり焼き上げて完成だ。
「オリガミドリッパー」開発秘話
ここからは開発秘話に迫る。ドリッパーのギザギザはどのようにして生まれたのか。
企画開発部 課長の松原貴志さんは、「当時サードウェーブと呼ばれるコーヒーブームの波が来て、コーヒーに特化したプロ仕様のアイテムを作りたいという思いがあった」と、プロジェクト立ち上げの経緯を話す。
まずはデザイン作りから。一般的なドリッパーよりもフィルターと本体の接触面が少なく、お湯の流れがスムーズなデザインを目指すことに。
試作品第一号は土岐市の花・キキョウをモチーフにしたものだった。しかし、「セットした時にペーパーがひずんでしまう。コーヒーの抽出がムラになってしまった」と松原さん。
フィルターを安定させるカギはギザギザの数だった。実験を繰り返しながら徐々にギザギザを増やした結果、現在の形になったのだ。
さらにバリスタから、「もっと薄くできないか」との要望が。「コーヒーのドリップで大事なのが抽出中のお湯の温度。ドリッパーが厚い形状だと、お湯の熱を奪ってしまう。ドリッパー自体を極力薄くして、安定して抽出できるものを考えた」(松原さん)。
一般的な陶器のドリッパーは厚さ約5ミリだが、「オリガミドリッパー」はわずか3ミリとかなり薄いのが特徴。こうしてコーヒーの温度を下げない、理想的なデザインが完成した。
松原さんは、早速型を作って試作に挑むが、ここで新たな問題が。成型後、ドリッパーにひびが入ってしまったのだ。原因を探ると、成型の向きが山なりの場合、泥漿が広がってムラができ、焼き上がりでひび割れが発生してしまうことが分かった。そこで型の向きを反対にしたところ、泥漿は中心に向かって均一に流れ落ち、ムラがなくなり、ひび割れも起きなくなった。
2017年に販売が開始された「オリガミドリッパー」は、トップバリスタが絶賛する大ヒット商品に成長した。
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