開発のきっかけは「ナメクジ」動きをまねて開発した「雪が積もらない特殊なフィルム」

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この冬は各地で記録的な大雪が観測されました。屋根に積もった大量の雪によって家が壊れたり、雪下ろしで事故がおきたりとさまざまな問題の原因となっています。こうした問題を解決するため、名古屋の企業と研究機関が共同で開発したのが「雪が積もらない特殊なフィルム」。開発のきっかけになったのは、ヌメヌメとした「ナメクジ」でした。

  • 特殊なフィルムを施した影響で屋根の雪が落下した

    (左)特殊なフィルムを施した影響で屋根の雪が落下した

特別豪雪地帯に指定されている北海道深川市。この地では、名古屋のフィルム加工メーカー「東山フィルム」が開発した特殊フィルム「SLUG(スラグ)シート」が注目を集めています。

東山フィルムは、水族館の反射防止フィルムや20万回たたんでも折り目がつかないフィルムなど、多岐にわたる製品を開発。今回注目されているSLUGシートは、雪が自然に滑り落ちる驚きの機能を持ち、豪雪地帯の課題解決に貢献しています。

SLUGシートの仕組み

  • ナメクジの体の構造を模倣

    ナメクジの体の構造を模倣

このSLUGシートは、0度以下に冷却すると特殊なオイルが染み出し、表面にぶつぶつが現れるフィルムです。このフィルムはナメクジの体の構造を模倣しており、汚れを滑り落とす機能を持っています。

  • ナメクジの体にビーズをふりかけて観察

    ナメクジの体にビーズをふりかけて観察

ナメクジの体にプラスチックのビーズをつけて定点観測をします。

  • ビーズがきれいに落ちた

    ビーズがきれいに落ちた

しばらくすると、体の表面から粘液が出て少しずつビーズがはがれていき、最後にはすべてのビーズが落ちました。

生物に備わっている仕組みを応用

  • 産業技術総合研究所 浦田千尋博士

    産業技術総合研究所 浦田千尋博士

産業技術総合研究所の浦田千尋博士が開発したSLUGシートは、生物模倣という技術に基づいています。生物模倣は、新幹線や飛行機の機体などにも応用。ナメクジの能力を再現することで、新しい課題解決の方法を提供しているのです。

  • カワセミのくちばしを模倣した新幹線500系の先頭車両

    カワセミのくちばしを模倣した新幹線500系の先頭車両

例えば、新幹線500系の先頭車両はカワセミのくちばしを模倣し、空気抵抗・騒音を抑えました。またANAの貨物機に貼られたフィルムは“サメ肌”を模倣し、空気抵抗を減らしています。

産業技術総合研究所 浦田千尋博士:
「汚れが落ちやすいもの何かないかなと探していたところ、ちょうど生物から学ぶ研究会に入っていて。気持ち悪いですけど、表面が汚れてないなと気づいたので、ナメクジの構造・防護機能を模倣できれば、汚れが落ちやすい材料になるのではないかと研究をスタートしました」

  • ナメクジの能力を応用した仕組み

    ナメクジの能力を応用した仕組み

シリコーン樹脂に、物を滑らせるための油を入れます。このシリコーン樹脂は冷やすと、溶かせるオイルの量が少なくなります。すると一部のオイルが樹脂の中での居場所を失い、外に締め出されるように。これでナメクジの能力を応用できるといいます。

このSLUGシートの材料でゲルを作り、オイル入り・オイルなしの実験を行いました。

  • オイル入りは滑り落ちた

    オイル入りは滑り落ちた

オイルが入ったゲルと入っていないゲルをガラスの板に置き、冷凍庫で冷やします。そして時間が経つと、オイル入りのゲルはガラスの板を滑り落ちました。

  • 2027年の実用化を目指す

    2027年の実用化を目指す

浦田博士:
「気温が暖かくなると戻ってきます。油を吹きかけると油を吸収してくれるので、1回フィルムを貼ってしまえば、長期間使える材料になると考えています」

SLUGシートの実用化は2027年を目指しており、豪雪地帯の問題解決に大きな期待が寄せられています。

生物模倣技術の未来

  • 太陽光パネルに使用することで、雪による破損を防げる

    太陽光パネルに使用することで、雪による破損を防げる

豪雪地帯では、太陽光パネルに雪が積もると機能しなくなる問題があります。東山フィルムの常務取締役・五島大治さんは、SLUGシートがこの問題の解決に役立つと期待しています。

太陽光パネルだけでなく、自動車のセンサーや道路標識などにも応用できる可能性もあるのです。

  • 体の仕組みを再現できれば新たな課題解決につながる

    体の仕組みを再現できれば新たな課題解決につながる

日本経済新聞社 山名直花記者:
「生物模倣はこれまで、生物の形を再現するものが主流でしたが、今回のように、代謝などの体の仕組みを再現できれば、これまでにないような新しい課題解決の方法が生まれるのではないでしょうか」

 

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