中日ドラゴンズのレジェンドOB・田尾安志と宇野勝が、現役時代に対戦したスゴい投手を球種別に語り尽くす。名前が挙がるピッチャーも、やはりレジェンド級!
ストレートとカーブは両者意見が一致!
【2人が選んだ最強のストレート 田尾:江川卓(巨人) 宇野:江川卓】
宇野「江川さんって、真っ直ぐとカーブしかないんですよ。高めのボールを振ってしまうのは、そういうところで」
田尾「カーブが高いからね」
宇野「そうなんです。分かっていても、カーブじゃないかと思って、つい振ってしまう。カーブとストレートの差があるので、異常にストレートが速く感じる」
田尾「僕の場合は、ストレートの“ノビ”。真っ直ぐがシュート回転じゃなくて、真っ直ぐな回転なんですよ。あれだけノビるピッチャーはいないよね。(江川)本人とも話したけど、スピン量がすごく多いんだって。その分、風の抵抗があるから、160㎞は出ないと言ってたよ」
宇野「スピン量で初速と終速の差が少ないから、空振りが取れるストレート。だから、速く感じるんですよね」
――お2人の江川さんとの対戦成績は?
田尾「2割7分何厘だっけ?」
宇野「ああ、僕より打ってますよ。僕は、2割6分4厘でホームラン10本」
田尾「俺はホームラン2本だった(笑)」
【2人が選んだ最強のスライダー 田尾:斎藤雅樹(巨人) 宇野:北別府学(広島)】
田尾「斎藤のスライダーは、厳密には今で言うカットボールになりますね。我々の頃は、あれをスライダーと言っていたけど。あれが左バッターからすると、“キタっ!”と思って振りにいくんだけど、ちょっと体に寄って詰まらされる」
宇野「特に、左バッターの方が内にくるかもしれないですね」
田尾「だから左は嫌なんだよ。真っ直ぐの感覚で振りにいくから」
宇野「僕は北別府さん。北別府さんはそこまで曲がらないんですけど、異常にコントロールがいいんですよ。最初から手を出さないから、知らないうちに追い込まれているみたいな感じ」
【2人が選んだ最強のカーブ 田尾:江川卓 宇野:江川卓】
田尾「カーブとストレートの2種類であれだけ勝つってことは、一つ一つが素晴らしいということだよね」
宇野「キレもあるし、コントロールもいいし」
田尾「あれだけ大きく曲がるカーブなのに、途中まで真っ直ぐに見える。だから、抑えられたんだと思う」
【2人が選んだ最強のフォーク 田尾:村田兆治(ロッテ) 宇野:加藤初(巨人)】
田尾「村田さんは、肘の手術をしてるんですよ。その後、僕が西武に移ってから勝負してるんですけど、それ以前の方が真っ直ぐも速かったし、フォークも落ちがあった。
村田さんのモーションが嫌だった。日本にカンザスシティ・ロイヤルズが来た時、僕も全日本のメンバーで一緒に村田さんとプレーしたんだけど、メジャーのバッターが手も足も出ないピッチングをしましたよ。その頃が全盛期だったんじゃないかな。
モーションからタイミングを合わせるのが難しいから、ランナーがいる時の方が打ちやすい。どうしてもクイックで投げないといけないので。ランナーがいない時の村田さんは、難しかった」
宇野「初さんは、よく対戦していてフォークボールのイメージがあるんです」
田尾「いい高さに落ちてくるんだよね。ストライクかボールか分からない所に。見逃せばボールなんだけど、振りたくなる高さにくるから、厄介なピッチャーだなって印象がありました」
2人が苦労した、シンカーとシュートの魔術師
【2人が選んだ最強のシンカー 田尾:西本聖(巨人) 宇野:西本聖】
田尾「西本のシンカーには僕らも苦労して…。谷沢(健一)さんと僕は左バッターでしょ。西本のシンカーをどう打つかという話になったことがあって、シンカーだと思うと、打てないんだよなと」
宇野「僕は、西本さんとチームが一緒になった時、キャッチボールをしながら『普通にシュートを投げてみてください』って頼んだんです。それがよく曲がるんですよ」
田尾「谷沢さんと話したのは、外にくるからといって外待ちをしたらだめなんだと。真ん中を待たないとダメ。真ん中にきたと思った球が、アウトコースいっぱいだから。そういう気持ちで打席に立たないと。(今見ても)いい球だよなぁ。ここまで変化するピッチャーって、今はいないよね」
宇野「ツーシーム投げるピッチャーはいますけど、そこまで曲がらないです。一回、西本さんのシンカー気味のシュートを見逃した時、かなり厳しかったので、『えっ? 今の』と審判に聞きましたもん。そうしたら『(ベースに)かかってる』と言われましたよ(笑)。“そんなに曲がってるんかい!”って」
【2人が選んだ最強のシュート 田尾:平松政次(大洋) 宇野:桑田真澄(巨人)】
田尾「僕はオープン戦で平松さんと初めてあたって、インサイドに向かってきたと思った球がアウトコースいっぱいのストライクだった。“こんなに曲がるんだ”という印象があるんですよ。その頃、球も速かったしね。サイド気味から投げるから、余計に曲がる」
――西本さんのシュートとどう違いますか?
田尾「平松さんのは“カミソリシュート”とよく言われましたけど、落ちないんですよね。真横にそのままスライドしていくような球でしたね」
宇野「桑田真澄はカーブと真っ直ぐのイメージがありますけど、シュートなんですよ。真澄のシュートが嫌でね~。真っ直ぐとスライダーにはそんなに怖さがないんですけど、結構シュートを投げるんです」
田尾「コントロール良かったもんね。アウトコースいっぱいの出し入れができる。そこを見切るのが難しい」
【2人が選んだ好きだった投手 田尾:北別府学 宇野:なし】
田尾「北別府はものすごくコントロールがいいので、外へボールがきた時に、“今、こんな気持ちで投げたな”とか、“次はこういうのがくるんじゃないかな”と読めたんですね。逆球はまったくといっていいほどないピッチャーだったので。そういう意味では、すごくヤマが張りやすかった」
宇野「僕は、なぜ“なし”なのかというと、自分が調子のいい時は、誰とやってもいいと感じるし、悪い時は誰と対戦してもダメなので(笑)。
北別府さんとは一番対戦していると思うんです。コントロールがいいので怖さはないけど、知らないうちに抑えられているという感覚。あまり勝てなかったから、チームで“北別府さん対策のミーティング”をしたこともありました。でも、何を狙うと言っても、どの球種も一級品なので、ミーティングしても結局抑えられちゃう(笑)。だからもしかしたら、北別府さんを打っているのは田尾さんだけかもしれない」
田尾「僕は好きだったね。達川(光男)がキャッチャーで、『田尾さん、今日も2本は覚悟しとるけんね。ランナーおらん時に打ってね』って言われたから(笑)」
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