【ド変態】カーボン調の塗装塗装や薄さにこだわり抜いたエアロetc...!ポルシェのプラモデルに隠された理解不能な思考回路 <ぼくらのちいさな作品展>
-
西桐英人の作品
愛知県で開催された模型イベント「ぼくらのちいさな作品展」 。会場の片隅で、まるで実車がそのまま縮んだかのような、異常なツヤと存在感を放つ2台のカーモデルに出会いました。
製作者は、西桐英人さん。一見すると物静かでダンディな大人の男性ですが、ひとたび模型の話になると人が聞いたら絶対にドン引きするような超絶工作を、満面の笑みで「こっちの方が楽なんで!」と言ってのける、愛すべきこだわり変態モデラー(最大級の褒め言葉です)でした。
模型マニアではない一般のあなたも、読めば100%驚く大人の本気の遊びと身近なアレを使った驚愕の裏ワザの数々。読後にはプラモデルの概念がガラリと変わる、ディープな世界へお連れします!
本命の車が作れない?コンテストに恋した男の贅沢なジレンマ
-
F-16C ファイティングファルコン
――西桐さんは普段、どういった作品を中心に活動されているのでしょうか?
「車が好きでメインにしたいんですが、実は飛行機も作っているんです。年に1回『あいち航空ミュージアム』でコンテストがあって、それに出すために全力投球しちゃう。その結果、本命の車が全く進まないのが現状です(笑)」
――メインにいきたいのに、飛行機に労力が取られちゃうんですね(苦笑)。コンテストとなるとやっぱりそうなりますか。
「そう、そうそう、そうそう、そうなんです(笑)メインは本当は車にいきたいとこなんですけど、飛行機にだいぶ、あの、労力が取られちゃう」
年に1回のコンテストのために全力投球した結果、本命の車が全く進まないという本末転倒なジレンマ 。好きなものに全力で振り回されている大人の無邪気な姿に、インタビュー冒頭から思わずこちらの頬も緩みます。
ドラッグストアでストッキングを買う理由。1/24の世界に生きる男の執念
-
ポルシェ911 GT3 RS
――今日持ってきていただいた、このタミヤの新しい「ポルシェ 911」。パッと見でものすごい精密感ですが、カーボン模様がすごく綺麗ですね。
「あ、これですか。本当はキットにはカーボン模様のシールがついているんですけれど、それを僕は使わずに、マスキングで塗装しています。あの、マスキングはストッキングを使って、ストッキングの目を塗装に通させて、その目で塗料が載るようにして、こういうカーボン模様にしているんです」
女性用ストッキングを型紙にして、上から塗料を吹き付けることで、あの複雑なカーボン模様を再現している。つまり、網目の細かさを利用したライフハックなのですが、紳士がストッキングを真剣に選んでいる姿を想像すると、その執念に脱帽です。しかし、驚くのはこれだけではありませんでした。
――他にどっかいじったりもしているんですか?
「こういうエアロパーツ的なものがありますけど、それを全部こう薄くしてあります。本当はプラスチックの成形上、薄くはできないんですよね。ちょっと厚みがどうしても出てしまうんですけれど。そうすると、これ1/24というスケールですけど、実車にしたときにすごい厚いエアロパーツになってしまうんで 、『それじゃちょっと実車感がないな』と思って。薄く削って、ペラペラにする工程を、こういう部分とかに施してあります」
1/24スケールでプラスチックの厚みが1ミリあったとしたら、本物のポルシェに換算すると厚さ2.4センチの鉄板エアロになってしまう。それはおかしいからと、紙のようにペラペラになるまで削る。私たちはただのプラスチックを見ていますが、西桐さんの脳内には本物のポルシェが走っているのです。
-
窓が開いている
――そこまでやるんですね……!あと、よく見たらこれ、窓が開いていませんか?
「あ、そうそうそう(笑)本当はこれ、窓コーンだけの一体のクリアパーツ(透明な部品)なんですけれど 、そこはくり抜いて、窓が開いた状態にしています 。っていうのが、中に内装をちゃんと、シートベルトとかも付け加えて作ったので 、それがよく見えるように。閉じちゃうと中が見えないもんですから」
――要は、中を「見てほしい!」ってことですね(笑)
「見せたいので(笑)ドアを開けるまでの技術はないので、せめて窓だけくり抜いて、そういうことはしてあります」
実車換算するとエアロが厚すぎるから、ペラペラになるまで削り込む。もはや自分が1/24の世界に生きているとしか思えない圧倒的な臨場感です。このポルシェのキット、実はネットなどで「みんなで同じものを一斉に作ろう!」という限定企画があり、20台ほどが集まるイベントがあったのだとか。同じキットを使っているにもかかわらず、ある人はパトカー仕様にし、ある人はガンダムみたいな色にするなど、個性の嵐。その中で西桐さんは、ストッキングでカーボンを塗り、窓をぶち抜いて中を見せるという、独自のこだわりで圧倒的な存在感を放っていました。
シールを貼るか、わざわざ全部塗装するか。達人が選ぶ2つの地獄
-
ランチア・ストラトス
――続いて、こちらの往年の名車「ランチア・ストラトス」。僕らの年代だと、完全にドンピシャのスーパーカー世代というか、もう絶対に記憶にある王道の1台です。
「そうですよね、ランチアのこの色なんかちょっと憧れがありますよね(笑)これはハセガワの、結構古いキットです。これの工夫としては、こういうストライプ(緑と赤のライン)が、マスキングで塗装してあります。あの、付属のシールを使ってなくって、これを型紙にして、マスキングテープで白を塗ったところに緑塗って、で、緑のところをまたマスキングして赤塗って。このサイドと上のところはマスキングでやっています」
-
マスキングで塗装
――えっ、このランチアを象徴する一番複雑な部分を、シールじゃなくわざわざ全部塗ったんですか!?
「そうっすね(笑)塗りたいというか、これ考えてみると、シールをこのギザギザのところに貼って、それから貼ったまんまじゃ穴が塞がっちゃうから、ナイフで切らないといけないんですよ。その苦労を選ぶか、マスキングの苦労を選ぶか、どっちか、どっちかなんですよね(笑)。僕は塗る苦労を選びました 。上から見たときに、シャッと線がないといけませんよね。シールだとズレる可能性もあるじゃないですか 。そういうところ、どっちを選ぶの、と」
――人によってどういう作り方をするか、どっちの地獄を選ぶかですね(笑)
「そう、そうそうそう。そうそうそう。そうなんです(笑)」
極小のギザギザに合わせて、ずれないようにシールを貼り、さらにナイフの刃先で慎重に切り抜く…… 。そのプレッシャーを味わうくらいなら、何重にもマスキングテープを貼って塗料を吹き付ける方が、西桐さんにとっては楽なのだそうです 。一般人から見ればどちらも気が遠くなるような苦行ですが、達人の楽の基準は完全にバグっています。
「あと、1つ特徴としては、こういうライトポット(追加のライト)が磁石ではずせるようになっていたり、ライトのカバーがひっつき虫(粘着ゴム)でくっつけられるようになっていたり。こうすると、昼間の仕様にもできますね、と。まあ、そんだけのことなんですけど(笑)」
――「そんだけのこと」って言いますけど、めちゃくちゃすごいです!
-
テールランプのところのネジ
「あとは、テールランプのところのネジ留めしてあるネジは、塗り分けじゃなくって、虫ピンの頭を埋め込んであるんです。これ、塗るよりこっちの方が楽なんですよ、実質は(笑)シートベルトとかも布で作ったりして。立体的にちゃんとベルトに見えるように。その辺がやっぱり、スケールモデルならではの自分のこだわりですかね」
極小のネジを筆で塗り分けるよりも、虫ピンの頭を切って埋め込む方が楽。どこまでも西桐さんの辞書にある楽は規格外であり、その創意工夫のすべてが、1/24の車体に本物の命を吹き込んでいます。
大人が本気で迷子になるプラモデルという底なし沼に浸かる幸せ
-
プラモデルの箱
プラモデルとは、ただ説明書通りに組み立てるだけのものではありません。箱を開けてパーツを見たときのワクワク感、中身の見えない箱の向こう側にある立体物を、どうやって自分の手で本物に近づけていくかという創造の旅です。
-
プラモデルのパーツ
女性用のストッキングを這わせ、虫ピンの頭を切り落とし、窓をくり抜いて中を覗き込む―― 。西桐さんの妥協のない作品と少年のような弾けた笑い声は、大人が本気で趣味に没頭すると、人生はこんなにも豊かで、こんなにもロマンに満ちあふれるんだということを、雄弁に物語ってくれているようでした。
こんな幸せな沼の住人が生み出す作品はこれからもユニークな工夫が凝らされていて、見る人までも「これにはこんなこだわりがあるんだ!」と楽しませてくれるに違いありませんね!
この記事をシェアする




