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染色加工会社「艶金」(岐阜・大垣市)
無限大の色を生み出す染色加工会社「艶金」(岐阜・大垣市)。日本の繊維産業が衰退する中、「艶金」が新たに始めた事業が絶好調だという。その全貌とは――。
繊維産業の衰退で工場の数が激減
「艶金」は、明治22年に繊維の町、愛知・一宮市で創業。戦後、高度経済成長の後押しもあり、墨 勇志社長は「一番多い時は、大垣の工場くらい大きい工場が約10カ所あった。(従業員も)何千人いた」と話す。
昭和中期、一宮にある染めもの工場のトップランナーとして、繊維の町の発展に力を注いだ「艶金」。しかし次第に、大手衣料ブランドがコストを抑えるため、生産拠点を海外に移転。染めの仕事が激減し、10以上あった「艶金」の工場は次々と閉鎖に追い込まれ、2010年、大垣工場だけになった。
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「艶金」墨 勇志社長
しかし今、“もう1つ柱になる事業が生まれている”という。墨社長は「ずーっと売り上げが増え続けている」と笑顔で話すが、何をつくっているのか。
逆境を救ったのは「艶金」ならではの特殊加工
墨社長は「このビニールカーテンの中で生産している」と教えてくれたが、機密事項を多く扱っているため、残念ながら撮影はNG。取材班はその正体を探るべく、商談の場に密着した。
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「サカエ理研 おうみ工場」(愛知・稲沢市)
「艶金」の技術者、松本さんと加藤さん、この製品の営業マン「槌屋」の櫟さんが訪れたのは、「サカエ理研 おうみ工場」(愛知・稲沢市)。自動車部品の塗装などを行っている企業で、おうみ工場は今年できたばかりだ。
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ロボットアーム
工場内に入ると、目の前に現れたのは、細かい作業や人がなかなかできない仕事を請け負うロボットアーム。絶好調な製品とは…ロボットアームを守る布製カバーのことだった。
なぜ機械にカバーが必要なのか。「アームについた塗料が製品に落ちると、メーカーにとっては不良になる。塗料を布に吸わせることで“不良を減らせないか”という話が出た」(墨社長)。
塗装用ロボットの場合、アームに付いた塗料の影響で製品が不良になる恐れがあり、溶接用ロボットの場合、火花によって故障してしまう可能性が。
「艶金」の特殊加工を施したカバーをかければ、不良品の数を減らし、故障を未然に防ぐことができるかもしれない…そんな事業を提案したのが、商社「槌屋」(名古屋・中区)だった。かねてから「艶金」の特殊加工に注目していたのだ。
まずは採寸。単純にサイズを測るだけでなく、動いた際に支障が出ないか、周辺に影響が出ないかなども確認し、工場に戻った松本さんと加藤さんは、すぐさま作業に取りかかる。
立体的な図面におこし、特殊加工を施した生地を採寸したサイズに裁断。その後、縫い合わせていく。「無理なオーダーでも受け入れてもらえる。他社のカバーは被せると膨らんでしまうが、『艶金』は機械に合わせてオーダーメードでつくってくれる」(「サカエ理研」担当者)と好評だ。
1週間後、完成したカバーを「サカエ理研」に。着脱を簡単にしてほしいという要望に応え、連結部分をマジックテープ仕様にした。ロボットアームにカバー取り付けると、サイズなどは問題なかったが、3日後…急きょ工場から呼び出しがかかる。
「(ロボットアームを動かすと)連結部が外れてしまう」。
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「艶金」の松本さん
そこで、百戦錬磨の職人・松本さんの提案で、マジックテープからファスナー仕様に変更することに。
改良したファスナー付きカバーをロボットアームに装着すると、今度は外れずに動き、問題は解決した。
長年培ってきた技術を生かし、新たなビジネスを確立した「艶金」。逆境を乗り越え、前に進むその姿は、ものづくり業界に希望を与えている。
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