広島県福山市を拠点とする社会人サッカークラブ「福山シティFC」が、異例の成功劇で注目を集めている。
若者の減少が課題となる中、代表の岡本佳大さん(37)は、スポーツを通じた地方創生に挑戦。年間100回を超える社会貢献活動を展開し、市民や行政、企業を巻き込んだ新たなビジネスモデルを構築した。その画期的な仕組みを紐解く。
地域を巻き込むビジネスモデルと圧倒的なエンタメ化
広島県福山市。若者にこの街の課題を聞くと、「発展しきっていない街」「衣食住に困ることはないけど、遊び足りない」「将来は福山から出たい人が多い」と話す人も。
今、多くの地方都市が抱える課題――それが若者の減少だ。
そんな街の課題にスポーツの力で立ち向かうのが、岡本佳大さん。岡本さんは、社会人サッカークラブ「福山シティFC」を立ち上げた人物。現在、クラブは地域リーグ(中国リーグ)に所属し、Jリーグ昇格を目指している。
そんな「福山シティFC」が“異例の成功を収める”アマチュアクラブとして、今、注目されている。
成功の理由は4つ。「観客動員数」「売り上げ」「パートナー数」「設備」で、いずれもプロに並ぶ成果を出していた。
2025年の最高観客数は、J3の平均よりも多い最高3889人(J3 2025年の平均観客数:3760人)。クラブの売り上げは年間約4.5億円で、試合の放映権料や入場料収入はなし。パートナー企業数は412社に上る。
さらに、ホームグラウンド・クラブハウスを完備しており、チームの使用時間以外は、一般への貸し出しも。
Jリーグに匹敵する大きな成果を上げている「福山シティFC」だが、成功の秘訣とは?
「営利」と「非営利」の2分化
【成功の秘訣①】「ファンとの交流」
試合後は、選手自ら来場者に感謝の思いを伝え、ピッチの外でサイン会を実施。
「毎週試合があるので、好きな選手が増えた」「部活や学校も、週末の試合があるから楽しめる」と話す人も。福山に週末の楽しみが生まれていた。
【成功の秘訣②】「社会課題解決」
社会貢献活動は、年100回以上。いずれの取り組みでも大切にしているのが、「FOR THIS CITY(この街と、ともに)」というクラブが掲げる想いだ。
福山での社会貢献活動を円滑に行うために、岡本さんはクラブの経営を「営利」「非営利」に2分化。営利組織でトップチームの運営を行い、非営利で社会貢献活動をしている。そしてこの仕組みの採用こそ、地方創生を実現するための最大の秘訣だった。
2026年4月、岡本さんが市内の小学校で児童に手渡したのは、デニム生地のトートバッグ。岡本さんは、日本一の生産量を誇る地場産業「福山デニム」を応援するため、「マイファーストデニムプロジェクト」を立ち上げた。
街の誇りでもあるデニムに、早くから触れてほしい——。そんな想いを込めて、福山市内すべての小学1年生に無償で配布した。
バックの中には、クラブと想いをともにする協賛企業の名が。企業にも教育現場にもメリットがある活動になっている。
これを実現したのが、岡本さんが取り入れた経営の2分化だ。
協賛企業とデニム事業者、それを取りまとめる一般社団法人「福山シティクラブ」がプロジェクトメンバーになり、トートバッグを行政に寄付。非営利団体が行うことで行政の信頼を得られ、こうした大規模な社会貢献活動も取り組みやすくなる。
「福山市内のデニム事業者は100年超えの企業が多い。認知度が上がれば、デニムに関わりたい人が増える。10年先を見越したマイファーストデニムプロジェクト」(デニムメーカー「篠原テキスタイル」篠原由起代表)。
この日、岡本さんが訪れたのは、私立「英数学館高等学校」(福山市)。「シン・ブカツプロジェクト」に関する中間報告会が行われた。
「シン・ブカツプロジェクト」とは、「英数学館高等学校」サッカー部の育成を、「福山シティFC」が担当する取り組み。現在1~3年生まで、合わせて約60人の部員が在籍している。
立ち上げの背景にあるのは、近年、教育現場で進む部活動の地域移行。教師の労働時間の超過理由として部活動が挙げられ、活動を外部に委託しようという国の施策だ。
「シン・ブカツプロジェクト」は、そんな教育現場の課題解決になればと、クラブが2023年から行っている。
「福山シティFCは、行政と市民の間に立って、単に行政の想いを伝達するのではなく、自らの想いを持って付加価値をつけて、市民に伝えてくれている。社会をより良い形で発展・維持していくことにおいて、スポーツの経験・力は欠かせないもの」(福山市 枝広直幹市長)。
地域のためにさまざまな社会貢献活動に挑む「福山シティFC」。福山で受け入れられるようになった今、クラブは新たな挑戦に乗り出している。
新スタジアムが描く未来とは――
実は岡本さん、同じくJリーグ昇格を目指すライバルクラブ「ヴァリアモーレ安芸」のビジネスコンサルティングも行っている。「業界的には、多分、今まで考えられなかったこと。同じリーグのクラブに手の内を明かすことはなかなかなかった。我々だけでとどめるのではなく、オープンにしていくことで、サッカー界全体が盛り上がる方が(福山にとって)大事」。
すべては福山のために――。その言葉を掲げ、選手、クラブが一丸となって挑む「地方創生」。岡本さんが考える次なる目標は、スタジアムの建設だ。2027年秋の竣工を目指し、計画を進めているという。
「Jリーグに昇格すれば、人の流れも大きく変わる。市外・県外の人が福山に来る。サッカーを見ながら福山の食事を楽しんだり、宿泊をしてお土産を買って帰る。たくさんの人の流れが変わってお金が落ちれば、市の経済効果にも貢献できる」。
スポーツを起点とした地方創生――。この街のために、「福山シティFC」の挑戦は続く。
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