刃物の産地・岐阜県関市にある工業用刃物のメーカーが、自社の独自技術を活用して家庭用包丁を開発しました。開発に使われたのは“禁断の素材”と呼ばれる「超硬合金」。厚さは一般的な包丁の半分程度ですが、切れ味は抜群といいます。
ブレずに切れる包丁
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「刃を動かすとトマトに吸い込まれていく」と話す
創作料理店「葉菜」を営む水谷千佳さんは、その道26年の料理人。店の人気メニューは彩り野菜と煮込みハンバーグの創作料理です。水谷さんにとって欠かせない相棒が包丁です。
水谷千佳さん:
「刃を動かすとトマトに吸い込まれていく感じ。スゥーと入っていきます。硬くて薄いので、一度食材に入るとスパッと最後までブレずに切れます」
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大型の粉砕機の刃
包丁をつくったのは、工業用の刃物を手がける岐阜県関市の福田刃物工業です。岐阜県関市は800年以上の歴史を持つ、日本有数の刃物の産地。工業用刃物の受注生産が主軸だった福田刃物工業は、2008年のリーマン・ショックで売上が激減しました。窮地を救ったのは、自社で培ってきた“ある技術”でした。
ドローンに商機を見いだす
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福田刃物工業 福田恵介社長
福田刃物工業 福田恵介社長:
「誰も包丁にしてこなかった超硬合金を、工業用刃物で培った技術でつくってみよう、と」
超硬合金は鉄やステンレスよりはるかに硬いのが特長です。ただそれは、欠点でもありました。
真ちゅう製のワイヤーを使って加工
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火花が散らない超硬合金
例えばステンレスは火花が散りますが、超硬合金からは火花が出ません。砥石ではほとんど削れないからです。そんな硬い超硬合金を、切ったり削ったりするのに使うのが0.25ミリの真ちゅう製のワイヤーです。
細いワイヤーを使うと、1000分の1ミリの精度の加工が可能だといいます。
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水中で作業
まず超硬合金の板、40枚を機械に固定し、ワイヤーをセットします。水を満たしてスイッチをオンに。ワイヤーに電流を流し、その熱で超硬合金を溶かしながら切ります。その温度は7000度にもなるので、水の中で作業するのです。ただ問題は作業時間。1分間に0.5ミリ程度しか切れません。
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10時間かけて加工
10時間かけて加工したのがこちら。あとは研いで刃をつければ完成です。今回一連の作業をやって見せてくれたのは、入社1年目の新人社員です。
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すべて1.15ミリ
その精度はどれも1.15ミリと、まったく同じサイズでした。厚さは一般的な包丁の半分程度ですが、切れ味は抜群。
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新入社員でもボタン1つでできるモノづくりにしたい
福田刃物工業 福田社長:
「1000本つくっても1000本、高品質を保ちます。『脱・職人』としてエンジニアがつくり上げて、最終的には新入社員でもボタン1つでできる。そういったモノづくりを目指しています」
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KISEKI:
価格は1本、3万4650円。アマゾンUSAでも販売し、1年で1億円を売り上げました。
日本経済新聞社 西堀 卓司支局長:
「刃物の産地、関市においても職人の担い手不足が問題になっています。伝統の技をデータ化、自動化することによって、高いクオリティの製品を安定供給する『脱・職人』の動きは今後さらに加速するのではないでしょうか」
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