家族介護に疲弊した介護者...寄り添い続ける女性の思い「親が生きている間にできることを」

ドキュメンタリー

  • 家族介護

    家族介護

人手不足が深刻化する介護の現場。厚生労働省によると、介護が必要な高齢者の数は2022年度末時点で約700万人です。2024年中には「団塊の世代」全員が75歳以上の後期高齢者に突入します。さらに2040年には872万人まで膨れ上がるという推計もあります。

そんな中で10年間、介護者に寄り添い続けた女性から、家族介護と支援のあり方を考えます。

※この記事は、テレビ愛知ドキュメンタリー「家族、だから苦しい 介護するあなたを支えたい」の内容を一部抜粋しています。

老老介護、働きながらの介護 家族に負担がのしかかる

  • 女性が話す様子

    岩月万季代さん

愛知県春日井市にある「てとりんハウス」は、家族の介護をしている人たちが無料で相談できるカフェです。相談を受ける岩月万季代さん(56)は、自身も母親の介護に苦しんだ経験があります。

介護中、「死にたい、消えたい」と話す母親に心身ともに疲弊。誰にも相談できない日々を過ごしました。同じように介護に悩む人たちを支えたいと、10年前にてとりんハウスを立ち上げたのです。

介護者が増えていく時代、支える場所がない

  • てとりんハウスオープン当時の写真

    てとりんハウスオープン当時

「手を取り合って、輪になろう」、そんな思いからつくった「てとりんハウス」。オープン当時は母親の介護と両立。朝から夜まで休みなく動いた岩月さんは、日々の疲れから倒れてしまったこともあるといいます。そんな中でも10年間続けることができたのは「介護者を支える場所をつくりたい」という使命感からでした。

  • 「地域包括支援センターの相談窓口

    春日井市で高齢者の相談全般を受け付ける「地域包括支援センター」

介護が必要と認定を受けた場合、担当のケアマネージャーがついて介護サービスを利用できるように調整を行います。介護の必要性が低い場合は、地域包括支援センターなどが相談窓口となります。しかし、いずれも「介護が必要な人」の対応が優先。自治体も「介護をする人」への支援の必要性を認めていますが、具体的に支援を行っているのはごくわずかです。

  • 男性が話す様子

    春日井市地域包括支援センター 藤山台・岩成台地区担当 寺田 功さん

春日井市地域包括支援センターの担当者は「相談件数が増えてカツカツの状態。正直、なかなか対応しきれていない部分がある」と打ち明けます。

また、春日井市役所の地域福祉課の担当者は「日本は法的に家族者支援をする場所が少ない。家族の方に対する相談が不十分」と話します。介護をする家族への個別支援を行うのは厳しい状況でした。

「そんなもん、食べれんがな」働きかけを拒絶

  • 母親を介護する男性

    母親の英子さんを介護する平木敬二さん

この日、てとりんハウスを利用する1人の男性を取材しました。母親の介護をしている平木敬二さん(67)です。週2回のデイサービス以外は、自宅で介護をしています。

母親の英子さん(91)は8年前に肺炎で入院しました。現在は介助なしで日常生活を送ることができないとされる「要介護5」の認定を受けています。

  • 女性がベッドで寝る様子

    平木英子さん

平木敬二さん:
「これまで母は、子どもと夫のためだけに生きてきました。できるだけ今を楽しんでほしいな、と。息子の勝手な思いです」

英子さんに食べてもらえる献立を考えて食事をつくる敬二さん。ベッドに持って行きますが「そんなもん、食べれんがな。もう、いらん。向こうへ持って行け」と突っぱねられてしまいます。自身のご飯は後回しにして、英子さんの介護に付きっきり。その後、デイサービスに送り届け、自らは食材や日用品の買い出しに向かいました。

  • 平木敬二さん

    平木敬二さん

敬二さん:
「介護そのものは親の人生に関わること。自分が後悔しないように一生懸命やっています。本当につらいことがあっても、親の前では弱音を吐けません。

母に働きかけを全部拒絶されて、煮詰まってしまうこともある。どんどん変わっていく親を受け入れてあげないといけないのに、まだ心の準備ができていないんです。それは自分が強くならなきゃいけないのかな、と思います」

ケアラー自身の生活環境を把握する難しさ

  • メールの文面

    介護に疲弊

2022年の国民生活基礎調査によりますと、同居の家族が要介護5の場合「ほとんど終日介護をしている」という人の割合が63.1%と、6割を超えています。

介護者が何を抱え、どう支援すべきか。その把握の難しさを感じた、ある事件がありました。2023年8月に、千葉県の介護者支援カフェを利用していた50代の女性が自ら命を絶ってしまったのです。女性は在宅で認知症の母親の介護をしていました。

  • 岩月さん

    岩月さん「ケアマネージャーに介護者支援を落とし込む」

自分たちの活動だけでは限界がある。そこで岩月さんを含めた介護者支援のネットワークは、国に介護者を専門で支援する人材の育成や、地域の支援団体の活動への助成を求めています。また、より近くにいるケアマネージャーや社会福祉協議会の担当者にもサポートしてもらえるよう、積極的に働きかけます。

岩月さん:
「ケアマネージャーに介護者支援を落とし込んでいく。介護者支援の一環としてすごく大事なことです」

「親が生きている間に、もっとできたことがあった」

  • てとりんハウスのイベントの様子

    てとりんハウスのイベント

「老老介護」「働きながらの介護」「大人に代わっての介護」。心身ともに疲弊する介護者を少しでも癒そうと、てとりんハウスでは月の半分以上の日でイベントを開催しています。介護する人も、される人も、介護に関係ない人だって参加は自由です。

岩月さん:
「介護と関係ないことなのに、という人が関わってくれると、介護者もそこで社会とつながりを持てます」

  • 介護について相談できるカフェ「てとりんハウス」

親が生きているうちに、もっとできたことがあったはず――。今なお、岩月さんの心に残る介護の後悔。だからこそ、てとりんハウスに来る人たちには少しでも納得のできる家族との時間の過ごし方をしてほしいと、真摯に語ります。

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