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半田モデラーミーティングに展示された、8マンさんによるF1マシン
模型愛好家たちが自慢のギミックや造形を競い合う「半田モデラーミーティング」。会場で一際異彩を放っていたのが、モデラーの8マンさんによるF1マシンです。
驚くべきは、これが市販のキットではなく、本来捨てられるはずの廃材から生み出されていること。図面すら存在しない最新マシンを、いかにして形にするのか。執念の製作舞台裏をインタビューしました。
世界最速を脳内で解析する、録画映像との戦い
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Red Bull RB15 マックス・フェルスペッタンの製作工程
――この精巧なF1マシン、すべて自作(フルスクラッチ)だと伺いました。
「ケミカルウッドという樹脂の塊から削り出した一品ものです。市販のプラモデルが出るのを待たずに、今まさにサーキットを走っている最新のマシンを自分なりに形にしています」
――最新マシンのデータは極秘のはずですが、どうやって再現しているのですか?
「実は、F1中継の録画映像を何度も巻き戻し、一時停止して、形状を頭に叩き込んでいるんです。特に近年のマシンは空力設計が複雑で、ラインのつながりが分かりにくい。映像の中の光の反射や影の動きを頼りに、脳内で三次元の曲線を組み立てていきます」
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Red Bull RB15 マックス・フェルスペッタン 2019年 イギリス GP
――まさに執念ですね。設計図は書かないのでしょうか。
「書きません。公式の資料なんてないですから、最後は自分のイメージが頼りです。もちろん100%正解かは分かりませんが、『実車はこうなっているはずだ』という自分なりの答えを削り出しています」
――一番苦労されるのはどの部分でしょうか。
「一番大変なのは、やっぱり曲面出しですね 。寸法をいろいろ測ってはみますが、図面なんてないですから。普通のプラモデルとはそこが全く違います」
仕事の廃材に命を吹き込む「逆転の発想」
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Red Bull RB21 マックス・フェルスペッタンの製作工程
――素材であるケミカルウッドについて教えてください。
「実はこれ、仕事で余った廃材を利用しているんです。仕事の関係でこの材料を支給されることがあり、端材で何かできないかと思ったのがきっかけでした。買うと高価な材料ですが、僕にとっては捨てられるはずのもの。それが10ヶ月後には、世界に一台の精密なF1マシンに変わるんです」
――すべてケミカルウッドだけで作られているのですか?
「いえ、100パーセントというわけではなく、プラ板も組み合わせて使います 。また、タイヤなどは一個自作したあと、シリコンで型を取って樹脂で増やしています 。全部を一個ずつ作るのは、寸法出しの面でも厳しいですからね」
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Red Bull RB21 マックス・フェルスペッタン 2025年 日本 GP
――加工の難しさはありますか?
「木に似ていますが、節がないので彫刻刀でザーッと一気に削れるのがいいですね。ペーパーで磨き上げれば、実車のような艶も出せます」
レースシーズンと並走する1年1台のドラマ
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Mercedes-AMG F1 W15 E Performance ルイス・ハミルトンの製作工程・前半
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Mercedes-AMG F1 W15 E Performance ルイス・ハミルトンの製作工程・後半
――1台を完成させるまでのサイクルは?
「だいたい10ヶ月かかります。3月にシーズンが開幕して、今年のマシンの形状が判明してから着手します。10月の日本グランプリの頃には、鈴鹿へ実車を見に行って答え合わせをしながら追い込みをかけ、12月のシーズン終了と同時に僕の作品も完成し、オフに入るという流れです」
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Mercedes-AMG F1 W15 E Performance ルイス・ハミルトン 2024年 イギリス GP
――最後に、こうした展示会で作品を披露することについて教えてください。
「実車の正確なデータがあるわけではないので、僕の作ったものが正解かは分かりません。 でも、それを見た方と『そうだよな』『こうなってるよな』と話ができるのが面白いんですよ。見てくれる方とのそういうやりとりが楽しいですね」
図面もデータもないところから、映像とイメージだけで三次元の美学を削り出す8マンさん。廃材から生まれるその圧倒的な造形美は、まさに大人の遊び心と執念の結晶でした。
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