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νガンダムとガンダムマークII
模型愛好家たちが自慢の造形を競い合う「半田モデラーミーティング」。会場で一際異彩を放っていたのが、ユニット「高橋ブラザーズ」として活動するT.Tさんの作品です。
彼を突き動かすのは、漫画家の近藤和久先生が描く独自の世界観「近藤版」への異常なまでの愛情。「キットが存在しないなら、自分で生み出す」。ライフワークと断言するその製作現場には、1日も欠かさず触り続けて形にする、崇高なまでの執念が宿っていました。
「キットがない」ことこそが、モデラーの醍醐味
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ノー近藤、ノーライフ
――近藤版へのこだわりが、言葉の端々から溢れ出していますね。以前の取材からさらに熱量が増しているように感じます。
「もう僕は、近藤版がないと生きていけないぐらいなんです。今日のために紙を用意してきたんですけど、見てください、『ノー近藤、ノーライフ』 。僕にとって近藤版は単なる趣味ではなく、完全にライフワークだと思っています 。何を作っていても、結局は一番大好きな近藤版に帰ってくる。この作品を作り続けること自体が、僕の生きがいそのものなんですよ」
――市販のキットが存在しない状態から、これほどの立体を作り上げるには、並大抵ではないエネルギーが必要ですよね。
「そこがモデラーとしての最大の楽しみなんです 。キットが出ていない、立体の正解がないものを作り上げる。これこそが醍醐味ですよね 。近藤先生のデザインは、元のモビルスーツをアレンジしている。アレンジ後の形は公式の立体としては存在しないわけです 。その存在しないものを自分で解釈して作る楽しさに、僕は完全に惚れ込んでいます」
「100分の1」という宇宙に、ディテールを詰め込む
――以前はガンダムMk-IIやνガンダムといった連邦側の機体を披露されていましたが、現在はジオン側を攻めていますね。
「もともとはジオン軍の機体が大好きなんです 。相方の高橋さんとのコラボで連邦側も作りましたが、お互いに作りたい機体がピタッと一致して、最初から最後までストレスなく楽しい製作ができました 。今は、近藤先生の世界観を100分の1スケール相当でどう表現するか、という自分との戦いに没頭しています」
――なぜ「100分の1」というサイズに、これほどこだわっているのでしょうか。
「僕はディティールを徹底的に詰め込むのが好きなんです。近藤版のデザインは重装甲が特徴ですが、僕の解釈では、装甲に守られた内側のシールド裏や関節の裏側には、動かすためのセンサーや動力パイプがびっしりと詰まっているイメージなんです 。100分の1スケールのほうが、その隙間の面積が物理的に大きくなり、ディティールをより深く、緻密に詰め込める。 だから途中からこのサイズに切り替えました」
蛇腹アームは「ご褒美」。難所を楽しみに変える逆転の思考
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爪の一本一本まで動くフル可動
――現在製作中の「ハイゴッグ」、特に腕の蛇腹部分は、誰もが息を呑むような構造です。
「5月の静岡ホビーショーに向けて魂を込めている、完全新作の近藤版ハイゴッグです 。水中用モビルスーツは以前ズゴックも作りましたが、近藤版の水中型は作例も少なく、キットも当然存在しない 。モビルスーツとモビルアーマーの中間のような、圧倒的なパワーを感じるフォルムを目指しています」
――あの複雑な腕の構造を見て、多くの人が「大変な難所だ」と言うはずですが。
「皆さんには『大変だね』『難所だね』と言われますが、僕からすればこれはご褒美なんです 。確かに難易度は高く、手間も暇もかかります。でも、そういう苦労したパーツは、完成した後に絶対に見栄えがするし、報われることが確定している 。格好良くなることが約束されているパーツを作るのは、楽しみでしかないんですよ」
――爪の一本一本まで動くフル可動へのこだわりも、もはや狂気を感じます。
「指が可動すると、そこに表情が出るんです 。ただの置物ではなく、開いたり閉じたりすることで感情が宿る 。そのために真鍮線、プラ板、プラ棒を駆使し、リューターで一つずつ削り出してピンを打ち込む……。この地道な反復作業がたまらない 。外側のパーツは使えるものが一つもなかったので、最初からすべて自作するつもりで挑んでいます」
素材はライター、魂は「一本のプラ棒」から削り出す
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展示されている様子
――驚いたのは、パーツの素材に既製品の日用品を流用されている点です。
「使えるものは何でも使いますよ 。例えば、頭頂部の金具は使い切ったライターの部品ですし、腕のフレキシブルな芯材はリモート会議用のマイクアームを流用しています 。他にもシャープペンの部品など、プラモデル用ではない金属パーツをストックしておいて、強度が必要な要所で組み込むんです」
――3Dプリンターなどの最新技術ではなく、あえてアナログな手法を貫く理由はどこにあるのでしょうか。
「デジタルも美しいですが、関節などの強度が求められる場所は、やっぱり金属(鉄)には勝てない 。それに、何より一歩ずつ作っていく工程そのものが楽しいんです 。一本一本のプラ棒を削り、ディティールを考えながら足していく。初めて理想の指関節が完成したときは、あまりの達成感にその日はぐっすり眠れました 。その瞬間の喜びは、ボタンひとつで出力されるものとは比較になりません」
「1日も休まない」――静岡ホビーショーへの誓い
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T.Tさんの作品の数々
――製作の進め方も、非常にストイックかつ計画的だと伺いました。
「全体のフォルムが100%納得いくまで決めてから、最後にディテールを足すようにしています 。先に細かいところを作ると、後で全体のバランスを微調整したくなった時に動かせなくなるのが嫌なんです。だから、僕は普通の人よりも完成まで途方もない時間がかかってしまいます」
――完成までのスケジュール管理も、もはや執念の域ですね。
「塗装だけで丸1ヶ月は確保します 。きれいに塗って終わりではなく、そこからウェザリング(汚し)を徹底的に施していくので、それだけの時間がないと自信が持てない 。実は、去年の11月に展示会が終わった次の日から、今日まで1日も休むことなくこの作品に触れ続けています 。静岡まで、これからも1日も休みません」
――その情熱を維持し続けられる、最大のモチベーションは何でしょうか。
「展示会で作品を見てくれる方と、『そうだよね、近藤版ならこうだよね』とイメージを共有して話ができるのが最高に面白いんです 。実車のデータがあるわけではないから、僕の作ったものが正解かは誰にも分からない 。でも、見てくれる方と対話し、共感し合う。そのやり取りこそが、僕にとっての報酬なんです」
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T.Tさんの名刺
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
「5月の静岡ホビーショー、おとなの秘密基地ブースにぜひ遊びに来てください 。僕が完成させて、舞い上がっている姿ではなく、魂を込めたハイゴッグそのものをぜひ見ていただければと思います 。何があろうと、必ず完成させます。それが僕のライフワークですから」
図面のない世界から、一本のプラ棒を削り出し、100日間欠かさず魂を吹き込み続ける。T.Tさんの近藤版への愛は、趣味の域を遥かに超越した、孤高の表現者としての誇りに満ちていました。
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