保護メガネがモビルスーツに!? キットのない「近藤版」を異素材と情熱で具現化するモデラ―の超絶技巧<半田モデラーミーティング>
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近藤版ゼータガンダム
模型愛好家たちが自慢の造形を競い合う「半田モデラーミーティング」 。その熱気あふれる会場で、ガンプラという枠を超え、独自のミリタリーテイストと圧倒的なボリューム感でファンを魅了し続ける「近藤版」モビルスーツを展示していたのが、タカハシヒロキさんです。
漫画家・近藤和久先生が描く独特な世界観を、プラ板や異素材を組み合わせて具現化するタカハシさんにインタビューを敢行。新作「近藤版ゼータガンダム」の製作秘話から、現在進行中の驚愕のフルスクラッチ作品「ブレッタ」まで、その創作の裏側に深く迫ります 。
漫画の「最高の一コマ」を三次元に翻訳する
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近藤版ゼータガンダムの裏側
――まずは、最近の活動について教えてください。
「最近は『タカハシブラザーズ』というコンビを組んで、兄弟でいろいろな模型イベントに参加させていただいております 。その活動の中でも今、僕らが一番熱を入れているのが近藤和久先生のデザイン、いわゆる『近藤版』の製作なんです 」
――以前、記事でご紹介した「ダブルゼータガンダム」に続き、今回の新作は「ゼータガンダム」ですね。これもまた、アニメの設定とは形状が全く異なります。
「はい、これは近藤先生の漫画『ジオンの再興』に出てきた仕様に合わせて改造しています 。ベースにしているのはマスターグレードの『ゼータガンダム Ver.2.0』ですが 、実際使っているのは太腿と足首くらいで、それ以外はすべてに手を入れています 。いわゆる幅増しによる大型化と、細部のディテール追加がメインですね 」
――大幅な形状変更が行われていますが、前回の「ダブルゼータ」の時と比べて製作の感触はいかがでしたか?
「ダブルゼータに比べれば、ゼータはユニット数そのものが少ないので、その分は少し楽でしたね。とはいえ、背中のバインダーやスタビライザーといった目立つ部分は、キットのパーツを加工するのではなく、プラ板から一から作り直しています 」
――キットをそのまま活かすのではなく、あえて一から作る。その改造のプロセスについて詳しく教えてください。
「僕の場合、まずベースとなるキットがあって、その横に目標とするイラストを置きます 。そこからキットを改造してイラストに寄せていくのですが、元にするデザインはアニメのような動きのあるものではなく、静止画である漫画の世界です。面白いのが、漫画はコマによって機体のバランスやボリュームが微妙に違うことなんです 。だから、その中から自分が一番気に入っているバランスのコマを選んで、そのボリューム感を拾い上げていきます 」
――「このコマの角度が一番かっこいい」という部分を抽出するわけですね。
「そうなんです。絵としてのパース(遠近感)が一番効いている角度、そのかっこいいバランスを立体に落とし込んでいくのが醍醐味ですね 。ただ、模型は360度どこから見ても破綻してはいけないので、そこを調整しながら形にするのが一番面白いところです 」
――近藤版のデザインは重厚なイメージがありますが、このゼータは比較的シャープな印象を受けます。
「そうですね。近藤版の中でもゼータは細身でシャープな部類に入ります 。実は今回、自分の好みのままに足を太くしたくなる衝動があったのですが、それをやるとゼータのラインが崩れてしまうので、そこはぐっと我慢しました。設定や漫画のコマにあるイラストのイメージを尊重して、理想のバランスを追求しています」
――配色のこだわりについてはいかがでしょうか?
「基本的にはいわゆる『ガンダムカラー』の配色をベースにしています 。ただ、近藤版にはカラー版のイラストが存在するものもあるので、それらをじっくり見ながら、色の配置やトーンなどの情報を拾い上げて塗装に反映させています」
保護メガネが「カブトムシの羽」に変わる発想の転換
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近藤版サザビーとブレッタ
――現在、新たに製作を開始されているのが『ブレッタ』という機体ですね。こちらはさらに異彩を放っています。
「ブレッタは近藤先生の完全オリジナル機体で、アニメには一切登場しません 。30年以上前に小さなスケールのガレージキットが出ていたことはありますが、今ではまず手に入りませんし、ガンプラとしてのキットも存在しません 」
――キットがないところから、1/100という大きなスケールでどうやって形にしているのですか?
「似た体格やパーツ形状を持つ他のプラモデルから部品を寄せ集める『ミキシング』という手法をとっています 。ベースにしているのはサザビーですが、胸部はドム、そして脛から足首にかけては、今となっては非常に貴重な古いキットである1/100のバイファムをベースに組み合わせています 。もう、ガンプラですらなくなっていますね(笑) 」
――バイファムまで使われているとは驚きです。特にフロント部分の巨大なスカートは、どのように作られたのですか?
「ここは完全に自作です 。このカブトムシの羽のような独特な曲面を出したくて素材を探していたとき、ふと目に留まったのが、会社で廃棄される予定だったプラスチック製の『保護メガネ(ゴーグル)』のレンズだったんです 。このレンズのアール(曲率)がまさに絶妙で、これを土台にしてパテを盛り、形状を延長して削り出すことで理想の形に仕上げました 。ベースとなるものがあれば、左右対称のパーツも作りやすくなりますし、非常に助かっています 」
――日常生活で目にするものが、モビルスーツのパーツに見えてくるわけですね。
「常にそういう目で見てしまいますね。『この形状、あの部分に使えるな』といったアイデアをいかに出して、工作を効率的に、かつ楽にするか。使える素材を見つけたときは本当に嬉しいですよ 」
「ないものは作る」――血が騒ぐモデラーの原点
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タカハシヒロキさんの名刺
――この巨大な『ブレッタ』ですが、製作のペースが驚異的だと伺いました。
「1月の初め頃から作り始めたので、まだ2ヶ月も経っていないくらいですね 。毎日欠かさず、3〜4時間は製作の時間にあてています 」
――その圧倒的な原動力はどこにあるのでしょうか。
「やはり『世の中にないものを自分の手で作る』という喜びです 。キット化されていない近藤版の機体に挑み、試行錯誤しながら形にしていく過程は、本当に血が騒ぎます 。最高に楽しいですよ」
「ないものを作る」というモデラーとしての純粋な衝動こそが、タカハシ氏を突き動かす最大のエネルギーです 。既存の枠組みに捉われず、保護メガネからバイファムまでを飲み込んで形を成していくそのプロセスは、まさに漫画の世界を現実へと手繰り寄せる「再興」の儀式と言えるかもしれません。
この情熱の結晶である「ブレッタ」は、5月に開催される「静岡ホビーショー」の秘密基地ブースにて完成した姿を見せてくれる予定です 。二次元のパースが生み出す迫力と、緻密な工作が織りなす「近藤版」の真髄。その圧倒的な実像をぜひ会場で体感してください。
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