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レトロ自転車
今回は、昭和初期から30年代ごろまで活躍したレトロ自転車のなかの「運搬自転車」を紹介。荷物を運ぶために重くて、ゴツくて、無骨な感じの自転車に魅了された主に密着します。
昭和30年式サイドカー付き自転車の魅力
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サカイさんの秘密基地は昭和初期の古き良き時代を感じさせるもの
今回の主であるサカイさんの秘密基地は、レトロな時計や看板などが並ぶ昭和初期の雰囲気を色濃く再現しています。
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昭和30年代に活躍した「運搬自転車」
そのなかでも目を引くのが、昭和30年代に活躍した「運搬自転車」になります。昭和30年頃はまだ自動車が普及しておらず、酒屋さん、米屋さん、八百屋さんの荷物の運搬は自転車で行っていました。
サカイさんが初めてレストアしたのが、昭和30年製の「長縄FLY号」で、たくさんの荷物が積める大きな荷台や太いタイヤが特徴です。
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サカイさんの長縄FLY号は現存数が少ない希少価値の高い1台
さらにサカイさんの長縄FLY号はサイドカー付きで、総重量はおよそ80㎏、フル積載状態だと180㎏にもなります。
多くの荷物を運搬できるように採用された、極太フレームや大型補助フロントフォークなど、従来の自転車にない無骨な魅力にハマったのだとオーナーのサカイさんは語ります。
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自転車とサイドカーを連結するジョイントは極太のものを使用
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タイヤも荷物を運搬するために規格外の太さ
プロモデラーとして活躍するイフェさんの作品。2作品とも『月刊ホビージャパン』との企画で製作した筆塗り仕上げのものです。いずれも筆塗りが難しいとされているラッカー塗料を使用しているにもかかわらず、エアブラシで仕上げたような均一感や光沢感を実現。実物を間近でみるとその具合がよくわかります。
さび付いた自転車をレストアして乗車
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入手当時の長縄FLY号。乗れる状態にしただけでなく、新車同様のコンディションにしたサカイさんの努力の結晶
入手した当時の長縄FLY号は、サビだらけで日常使いできる代物ではありませんでした。サカイさんは丁寧にサビ落としやバフ掛けを行い、オリジナルの状態に近づけるだけでも1年近くかかったといいます。
さらに困難を極めたのはパーツの入手で、長縄FLY号は長縄自転車リヤカー製作所が特別制作した車両ですが、現在ではメーカーすら存在していません。そのため、サカイさんは当時の資料を参考に、さまざまな流通経路からパーツを入手したのだとか。
また、昭和30年代の自転車は、現在の自転車にはない当時ならでは装備が搭載されています。代表的なのがスポークベルで、フォーク部に取り付けられたベルをハンドルのレバーを押すことで鳴らす仕組みです。
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当時は画期的な装備だったスポークベル。操作はハンドル右手のボタンで行う
ほかにも、ハンドル前のスイッチを引くことで表示される手動式のウインカーや鍵をかけたときに現れる「休車」の案内板など、当時ならではのアイデアが満載の車両になっています。
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当時の路面電車にも採用されていた手動式ウインカー
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当時の運搬自転車は高級車の部類に属していたため、今の自転車にはない多くのギミックが搭載されている
レトロ自転車を2速ギア化する
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サカイさんのプロジェクト計画書。課題から対策まで段ボールにびっしり記載されている
とにかく重量のあるレトロ自転車で大変なのが取り回しで、幅もあるため方向転換ではひと苦労です。さらに、原付バイクほどの重量がある運搬自転車で最もきついのが坂道。相当な筋力を使います。
そこでサカイさんは問題を解決すべく、段ボールで新たなプロジェクト計画書を作成しました。計画書の内容は、走行の負荷を軽減するためのギアの2速化で、採用することで30%ほど負荷が軽減される見込みです。
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入手困難な昭和30年代の2速変速機。包まれていた新聞は昭和34年1月1日のもの
部品はすでにネットオークションで入手済みで、昭和30年代のサイドカー用の2速変速機で新品同様のデッドストック品でした。
ギアの切り替えはペダルに付いたスイッチを操作することで行い、平地用と坂道用に切り替えることで坂道でも立ち漕ぎなしで走行できるようです。しかし、入手したパーツに問題が発生していました。
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昭和34年当時の新聞
本来はギアを切り替える時には片側のギアしか駆動しない仕組みですが、入手したパーツは切り替えてもどちらのギアも回転する仕組みで変速できない状態になっていました。
ギアをオーバーホールしたところ、ギアを固定するラチェットとスプリングが欠損していたことが問題のようです。
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入手した変速機のラチェットとスプリングが欠損したため、2速ギア化は難航……
友人にオーダーしたパーツを使用
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レストアの影の立役者である川瀬さんの協力で欠損したパーツが復活
2速ギア化のため、サカイさんは板金工場を営む中学時代の同級生である川瀬さんに協力を依頼。欠損していたパーツの製作をお願いすることにしました。
できあがったパーツを受け取ったサカイさんは、さっそく本来のパーツのサイズに整形していきます。
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グラインダーで様子を見ながら加工
グラインダーを使用しながら少しずつ形を合わせていき、半日ほどかけて足りなかったパーツが完了しました。パーツを組み付けて操作すると無事にペダルとギアがかみ合って、ギアの修復が終わりました。
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加工した部品がピッタリ収まり修復完了
完成した変速機を自転車にセッティング
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変速機の組付け。当然サイドカーは外した状態で行う
いよいよ完成した変速機を自転車に取り付けます。あらかじめ取り外したサイドカーに、変速機を慎重に設置。そして最後の大仕事である自転車とサイドカーを取り付ける工程です。
サイドカーの取り付けは1人では難しいので、同級生の川瀬さんが手伝いに駆けつけてくれました。
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サイドカーの取り付けは2人がかりで慎重に実施
自転車とサイドカーは3点のボルトとナットで固定する仕組みですが、かなりの重量物ということもあって、ボルトとナットは自転車の規格とはかけ離れた大きさです。
無事に取り付けた後、ナットを規定トルクで締め付けて、2速ギアの長縄FLY号が完成しました。
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自転車には不釣り合いな太いボルトとナットは運搬自転車ならでは
完成した長縄FLY号を坂道に持ち込んで試走、ギアを切り替えて坂道に差し掛かると80kgの巨体とは思えないほど軽快な走りを見せてくれました。
実際にレトロ自転車を走行!
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2速ギア化に成功した長縄FLY号で早速坂道に挑戦。立ち漕ぎすることなく80㎏の巨体がスイスイ進んでいく
レトロ自転車の課題をクリアしてご満悦のサカイさん、これなら遠出が可能と笑顔が零れ落ちます。昔の自転車を当時の姿に戻して走らせるのが、サカイさんにとって最高の原動力になっているようです。
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レストアするだけでなく運転してこそが運搬自転車だとサカイさんは語る
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