【名古屋】大須シネマ閉館...元副支配人「大須で映画を届けられて、楽しかった」スタッフと振り返る6年間

ドキュメンタリー

  • 大須シネマ外観

    大須シネマ外観

名古屋市・大須商店街の一角にある映画館「大須シネマ」が、4月27日に閉館しました。

2019年3月30日の開館から6年間、1スクリーン42席のミニシアターとして、多くの映画ファンの心をつないだ場所。大須シネマの立ち上げに尽力した元副支配人の杉山薫さんをはじめ、スタッフの皆さんとともにこれまでの思い出を振り返ります。

業界のルールを知らないまま始めた映画館

  • 1スクリーン42席の大須シネマ

    1スクリーン42席の大須シネマ

もともと大須は、名古屋で初めて映画が生まれた街。最盛期には23の映画館がありましたが、戦争で焼失してしまいました。そこで「映画の街として復活させたい」と立ち上がったのが、当時の支配人の中川健次郎さん。仕事を通じて交流のあった杉山さんは、中川さんとともに、ボランティアとして映画館設立やNPO法人設立に奔走したといいます。

その後、2020年7月に名古屋のデザイン会社・株式会社大丸に運営を移管。同時に杉山さんは副支配人となり、上映作品の編成やSNSでの情報発信を担当していました。

  • 大須シネマのロゴ

杉山さんは大須シネマの運営を引き受けたものの、映画館を運営するのは初めて。当初はさまざまな業界のルールを知らなかったといいます。「配給会社の存在すら分かっていませんでした」と杉山さん。配給会社とのつながりもなく、伝手などを頼りながら必死で上映作品を探しました。

開館後はテーマ決めに苦戦

  • 入口のガラスの扉には、上映作品の内容に合わせたキャッチコピーが

    入口のガラスの扉には、上映作品の内容に合わせたキャッチコピーが

特に、上映作品のテーマ決めには最後まで苦心したそう。最初はたった1人で上映作品を考えていましたが、スタッフが増えるにつれてみんなでアイデアを出し合うように。上映テーマに沿った3~4本をピックアップし、テーマを深掘りできるように工夫を凝らしました。

「支配人からも『編成は自由に決めていい』と尊重してくれて、とても心強かったですね。スタッフのみんなと一緒にアイデアを練る時間がとても楽しかったです」

映画でつながる、スタッフの輪

そんな杉山さんと一緒に働いてきたスタッフの皆さんにも、大須シネマへの思いをお聞きしました。

  • 男女4人が雑談している様子

    (写真右から)副支配人の杉山薫さん、映写主任の高木卓瑠さん、管理部アシスタントマネージャーの新美朋瑠さん、アルバイトの前野里桜さん ※肩書は4月22日取材当時のもの

――スタッフの皆さんは、オープン当時から大須シネマに?

新美朋瑠さん(以下、新美さん):「私と高木(卓瑠)さんは、オープン当初から働いていましたね。当時私は大学生で、高木さんは卒業後でしたよね?」

高木卓瑠さん(以下、高木さん):「そうですね。大学で映画の勉強をしていました。その知識を生かしながら働けたので、すごく大きな経験になりました」

新美さん:「一から上映作品を決められる経験はなかなかないので、とても楽しかったです。前野さんは上映作品の1つだった『君の名前で僕を呼んで』を観て、大須シネマに仲間入りしてくれたんですよね」

前野里桜さん(以下、前野さん):「映画館で観られたらいいなと思っていたら、ちょうど上映をしていたので『行ってみよう!』って」

――映画を通して、人とのつながりが生まれたんですね。

杉山さん:「ほかにも大須シネマで一生懸命働いてくれたスタッフがいて、彼らがいなかったらどうなっていたか、分からないですよね」

  • 大須シネマのZ映画祭のポスター

    大須シネマのZ映画祭のポスター

――ちなみに大須シネマは“サメ映画”を頻繁に上映されていましたね。

杉山さん:「サメ映画は、私が好きで流していました(笑)。B級、Z級の映画が好きなんですよ」

高木さん:「サメはたくさんの方に観てもらいましたよね。吉永小百合さんの映画とともに、サメ映画を観てくださるお客さんもいて」

杉山さん:「そうやって、素晴らしい作品を流すきっかけや、映画に出合う機会がなくなってしまうのはすごくもったいないです。映画館は新しい発見、新しい感情が生まれる場所。その場所がなくなってしまうのはとても悲しい」

突然届いた「閉館」の知らせ

――閉館の知らせを聞いたときは、どんな気持ちでしたか?

杉山さん:「突然、3月5日に閉館のことを告げられてしまい……。本当は3月末に閉館の予定だったのですが、支配人と相談して4月27日まで延長してもらいました」

  • チラシ

――4月以降の上映スケジュールも決まっていた?

杉山さん:「決まっていました。配給会社さんから『告知済みなので、上映してください』とのお願いもあったんです。映画祭のお話も出ていた中で、とにかく各所に謝罪をして。3月中は、そういったご連絡で手一杯でしたね」

新美さん:「私は次にやりたい企画をぼんやりと考えていたので、とても残念でした」

――どんな企画でしたか?

新美さん:「以前、2回開催した『ピアノ生演奏で観るサイレント映画』です。サイレント映画に合わせて、ピアノ奏者の鳥飼りょうさんに生演奏をしてもらう企画でした。第3回も開きたいな、と思っていたので、開催できないのが心残りです」

  • 閉館前の4月24日には、楽士の鳥飼さんが大須シネマを訪れてくださったとか!

    (写真中央)閉館前の4月24日には、楽士の鳥飼さんが大須シネマを訪れてくださったとか!

大須シネマは未知の映画と遭遇できる場所だった

  • スタッフの皆さんで館内をデコレーション。時には天井に貼ることも!

    スタッフの皆さんで館内をデコレーション。時には天井に貼ることも!

――お客さんとの距離が近いのが大須シネマの魅力の1つでもありました。今でも心に残るエピソードはありますか?

杉山さん:「大須商店街という街の特徴もあって、海外のお客さんも来てくれましたね。サメ映画を全部観てくれた外国人のお客さんもいました」

高木さん:「あとうれしかったのが、上映スケジュールを間違えて来ちゃったおばあちゃんが、別の作品を観て喜んでくれたこと。本当は『ピンポン』を観たかったのに、せっかくだからと『長く熱い週末』というギャング映画を観てくれたんですよ」

杉山さん:「全然違うジャンル(笑)」

高木さん:「観たあとに『面白いね!』と感想をくれて、うれしかったです」

  • 映画館の座席

杉山さん:「映画館でお客さん同士が『一緒に盛り上がって観ることができて、楽しかった!』とお声がけいただいたこともありましたね。映画館に訪れた人同士が仲良くなって、そのあと飲みに行くこともあったみたいです。

自分たちが流したいものを、自由に上映させてもらう。そして、その作品を観て喜んでくれるお客さんがいる。大須シネマは、そんな皆さんでつくり上げた集大成ですね」

これからも続く、映画への愛情

スタッフと観客が一緒に築き上げた大須シネマ。運営に携わった皆さんは今後、どのように映画と向き合っていくのでしょうか。

  • 映画「スターウォーズ」シリーズに登場するヨーダの置物

    映画「スターウォーズ」シリーズに登場するヨーダの置物

杉山さん:「直接的に映画に携われるかは分からないけれど、私で力になれることがあれば頑張りたいです」

高木さん:「これからのことは明確にはお答えできませんが、映画が好きなので、ずっとふれ続けていたいな、と」

新美さん:「私はもっと映画館に足を運んで、少しでもその映画館が長く続くように支えたいです」

  • 大須シネマ ロゴ

前野さん:「映画館は自分の居場所の1つでもあります。そうした場所がなくならないように、たくさんの映画作品を楽しみ続けたいです!」

そして最後に杉山さんは、大須シネマに携わることができて「楽しかった」と笑顔を見せます。

杉山さん:「大須の街で自分が届けた映画を喜んでくれるお客さんがいて、とてもうれしかったし、楽しかったです。これまで大須シネマを愛してくださったすべての皆さんに、心から感謝します。6年間、本当にありがとうございました」

  • 大須シネマに飾ってあるポップ

    チケット売り場では、杉山さんがお世話をするネコがごあいさつ。なんとお客さんが作ってくれたそう! こちらこそありがとう、大須シネマ!

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