大井川鐵道「きかんしゃトーマス号」出発準備と整備工場に密着!

工場へ行こう III AMAZING FACTORY

かつて、日本の大動脈を支えた蒸気機関車。現在、蒸気機関車が走る鉄道路線は全国に8カ所あるが、中でも運行本数日本一を誇るのが、静岡県にある「大井川鐡道」だ。
今回は、いまも現役で走る蒸気機関車を徹底取材。豪快に蒸気が噴き出す出発準備や整備工場に密着した。

大井川鐡道「きかんしゃトーマス号」出発準備と職人技

1872年、日本で蒸気機関車が運行開始。それ以降、1950年代まで活躍したが、電気で走る車両が増えていくとその役割を終え、姿を消していった。
そんな中、1969年に名古屋鉄道から大井川鐵道へやって来たのが、後の副社長となる白井昭さん。白井さんは名古屋鉄道時代に、日本初の全面展望車「パノラマカー」の企画・製作に関わった鉄道界のレジェンドだ。

白井さんは、蒸気機関車の現状を知り、「先人がつくった大切な財産を動く状態で残したい」と思い立つ。そんな熱い思いが実り、1976年、大井川鐵道で蒸気機関車が復活! 同時に整備技術が受け継がれ、いまも運行を続けている。
その精神は蒸気機関車だけに留まらず、大井川鐵道は全国各地から引退した電車を引き取り、保存・運行させている。

  • 新金谷駅

今回、取材班が向かったのは、静岡・島田市。南アルプスを源流とする大井川が流れる自然豊かな地域だ。

1925年に設立した大井川鐡道は、今年でちょうど100周年。開業当初からある新金谷駅の駅舎も築100年ほどで、2008年、国の登録有形文化財に登録された。
新金谷駅から歩くこと5分、新金谷車両区(車両の検査や修繕を行う)に到着すると……

  • きかんしゃトーマス号

蒸気機関車「きかんしゃトーマス号」が登場! 現在、大井川鐡道は5台の蒸気機関車を所有しており、トーマス号は2014年から運行している(2025年11月30日まで運休予定)。

蒸気機関車は、どうやって動いているのか、まずは出発準備から見ていこう。
午前7時、作業員がトーマス号の窯の中へ、次から次へと長い木材を投入。この窯は「火室」と呼ばれる蒸気機関車の心臓部で、車体の中心付近に設置されている。

石炭を燃えやすくするため、まずは木を燃やして温度を上げる……蒸気機関車を走らせるために必要な作業だが、約1000℃まで上げるのに、かかる時間は3時間! その間ひたすら、木を入れ続ける。

火室の奥行きは約2メートルあり、効率良く温度を上げるため、木も火室と同じ長さに。
この下地づくりが大事だそうで、時折、火の具合を見て配置を変えるなどし、均等に燃えるようにしていた。石炭を燃やす準備段階でも、ここまで手間がかかるのだ。

  • 打音検査

午前8時、火室の温度を上げている間、車両の外では重要な作業が行われていた。
作業員が車体の下に入り、ハンマーでリズミカルにたたき、ナットなどの緩みを音で確認。この打音検査は、なんと100カ所以上で行われるそう。出発前の大事な作業だ。

点検が終わり、時刻は午前10時。火室の温度が上がり、炎が安定したところで、いよいよ石炭を投入。石炭庫から受け皿に落ちてきた石炭をスコップですくい上げ、火室へ投入し、温度を一気に上げる。この熱で水蒸気を発生させるのだ。
蒸気機関車には7000リットルの水を用意。この水がボイラーに送られ、石炭を燃やした熱で温められることによって水蒸気が発生。水蒸気の力でピストンを動かし、車輪が回転させる仕組みになっている。

準備万端! 汽笛を鳴らして新金谷車両区を出たトーマス号は、客が待つ新金谷駅のホームへ。ここで客車と連結され、元気に出発した。
取材時に大井川鐵道が運行していたのは、このトーマス号だけ。他の蒸気機関車は、工場で整備中だ。

 

大井川鐵道 整備工場に潜入!

  • C10形8号機

いよいよ整備工場に潜入。お目見えしたのは、大井川鐵道が所有する車両の中で最も古い、1930年に製造された「C10形8号機」だ。旧国鉄の蒸気機関車として活躍した後、大井川鐡道へ。重厚感のある黒いボディーが味わい深い。

  • 通称“ビッグボス”と呼ばれる松本さん

車両の整備は熟練の職人たちによって行われ、勤続32年、通称“ビッグボス”と呼ばれる松本さんがチームをまとめる。「おおむね4カ月くらいかけて上から下まで分解し、異常がないかを検査する」。

取材時は、毎年6月から行う定期検査の真っ最中。「C10形8号機」は1年のうち約半分を整備の時間に充てている。
11月21日の運行を目指して整備中だったが、点検するのは約500カ所で、整備部品はなんと約1万パーツ!
蒸気機関車の部品は手に入らないことが多く、図面から書き起こして外注、もしくは自社で製作することもあるという。

例えば、石炭を燃やす火室の上にあるこのバルブ。開け閉めすることで蒸気を送り込む重要な部品だが、新品のバルブは取り付け口の形が違うため、接続部品を新たに製作する必要が。この部品づくりにも、並々ならぬこだわりが隠されていた。

  • 加工を行う旋盤

こちらは、加工を行う旋盤。今から59年前に製造されたものだが、蒸気機関車の部品を再現するには、当時のマシンが適しているという。

整備チームの一人・大杉さんは、「今回で言うと、ネジ山を作る作業がある。むかしはインチという規格のネジで、いまはミリという規格のネジ。むかしのネジを作るのがこの施盤で、この機械がなくなったら、蒸気機関車の整備が終わらない。メチャクチャ大事な機械」と話す。

ネジの素材となる砲金をマシンの刃で削るが、大杉さんがハンドルを回して、削る刃の位置を調整していた。古いマシンを使うのもひと苦労だ。

こうして完成した部品がこちら! 見事、きれいにハマった。

これほどまでして蒸気機関車の整備を続ける理由を聞くと、大杉さんは「蒸気機関車を走らせたい。地元なので、昔から蒸気機関車を見ていた。将来的に残したいという思いがある。部品がないから運行をやめるところが多いが、いまある部品を付けられるように改造すれば、ずっと交換して使っていける」と話してくれた。

大井川鐵道で脈々と受け継がれる技術――。
工場では引き続き、11月21日の運行を目指して「C10形8号機」を整備。職人たちの手によって再び命が吹き込まれるまで、あと少しだ。

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